【高校野球・注目校 監督インタビュー 立花学園[後編]】スカウトで重視するのは“心” 多様な高校野球の要素「3年間“やり切った”と感じてほしい」
高校野球の激戦区・神奈川県で、2022年夏の選手権では県4強、2023年春には県8強に進出と、近年、着実に上位候補として名乗りをあげてきているのが、私立・立花学園高校(松田町)。この4月で就任8年目を迎える志賀正啓監督は、選手の主体性を重んじた指導と、データを活用した成長の可視化で“強豪越え”を目指している。「革命」の言葉を掲げ、新しい高校野球の部活動の“カタチ”も模索する、監督の言葉を聞いた。
――普段の練習メニューも、基本的には選手たちが決めるそうですね。
「大枠は私が決めますが、細かいところについては基本的に選手たちが決めています。キャプテン、副キャプテンから前週の反省点や課題点を聞き、今やるべきことを明確にさせて、決めてもらうようにしていますね」
――選手自身が決めることには、どのような意味があると考えていますか。
「責任が伴う、ということですね。選手の行動を“前のめり”にさせるのは、やはり責任感。例えば、絶対に盗塁できる場面で、『アウトが怖いから』と自分を守るのではなく、リスクを負ってでも走れる選手になってほしいと思っています」
――野球人口減少が言われる中で、部員数も120人超と多いですね。
「丸刈りも含めた頭髪自由なので、それも大きいのではないでしょうか。慶応さんをはじめ、県内も徐々に自由は増えてきましたが、まだ丸刈り(がルール)の学校は多いですから」
――頭髪自由は、いつからでしょうか。
「もともと、丸刈り必須とも長髪OKとも明言はしない中で選手たちは丸刈りにしていたのですが、コロナ禍直前、副キャプテン2人が、横だけを短くして上を少し伸ばした“おしゃれ坊主”にしてきたのです。下級生は指摘できないし、フェアではない。それをきっかけに、『丸刈りが必要か・必要じゃないか』、私も“種まき”をして2時間ほど全員で話し合いをし、投票で決めました。結果は、8票差の僅差。面白かったのは、マネジャー全員が丸刈りを支持したことですね(笑)」
――“種まき”では、監督はどのようなことを話したのですか。
「神奈川大会の決勝の会場は、秋は(サーティーフォー)保土ヶ谷球場、春夏は横浜スタジアムと、常に県の“東側”。そして、スタンドには熱心なオールドファンも多い。その中で、立花学園という“ポッと出”の学校が西側から進出してきた時、『長髪で生意気だな』と思われ、相手チームに応援が流れてしまうかもしれない。そうしたことを超越して勝てるくらいの実力を身に付ける覚悟も必要だよ、という話をしました」
――スタンドの応援のことまで考えているのですね。
「ウチは応援も独特で、学校近くの足柄山からイメージした『きんたろう』のメロディや、今では他校も使っていますが『新世界より』(ドヴォルザーク)も、いち早く取り入れているんです。それを聴いて、『おっ、立花学園が来たぞ』とオーディエンスを引き寄せることができるかなと」
――なるほど、深いですね。
「野球という1つの要素に対して、本当にあらゆることが複合的に絡んでいます。立花学園に興味を持ってもらい、球場に見に行ってみようかという方が1人でも増えてくれれば、ウチにとっては“戦力”になります。おかげさまで、立花学園で野球をやりたいという部員も増えていることは確かですから、やってきたことの一定の成果は得られていると思います」
――監督のアイデアマンぶりが伺えますが、逆にうまくいかなかったことは?
「ありすぎて言えないです。それを含めて、指導者として意識していることですね。私が最前線でズッコケていれば、生徒たちも『失敗してもいいからトライしよう』と感じてくれるのではないでしょうか」
――中学生をスカウティングする際に、監督が注視するポイントはどこでしょうか。
「プレー以外の“心が見える”部分ですね。例えば凡打した時の様子、ベンチでの声出しの様子など。私がイメージするのは、高校3年生の18歳になった時にどんな選手に成長するだろうかということ。18歳の姿を想像するには、心や考え方にフォーカスした方がいいと思っています」
――高校野球を目指す育成年代に向けて、取り組んでおいてほしいことはありますか。
「まずは1つにこだわらずに、いろいろなポジションに挑戦してほしいですね。そのポジションの選手の気持ちもわかるようになりますし、いろんな体の動きを身に付けることにもとながります。遊び感覚でもいいので、野球以外のスポーツに取り組むことも良いと思います。あとは、トライ&エラーをたくさんしてほしいですね。アグレッシブな失敗は、必ず、成功への肥やしになりますから」
――監督のお話からは、野球のプレー以外にも将来につながる“伸びしろ”を作れると感じます。
「野球には試合で勝つ以外の側面も、いっぱいあります。選手たちには、そこにも目を向けて取り組んでほしいと思っています。グラウンドで泥だらけになるのも“高校野球”だし、裏方的な仕事をするのも“高校野球”。実力的にレギュラーになれなかったとしても、3年間で“高校野球”をやり切ったと感じてもらいたいんです」
――その上で、初の神奈川の頂点を目指していくと。
「チームとして神奈川で1番になることは目標ですが、それに向けて生徒がどうアプローチするかは千差万別でいいと考えています。選手たちにも言いますが、入学時の“入口”は関係ないし、慌てなくてもいい。高3の夏に、県内の強豪校と対等に戦える、または上回れるようにするにはどうすればいいか。グラウンド以外にも複合的に、強くなる要素はある。立花学園での3年間を、どう過ごし、成長できるかを考えてほしいと思っています」
【高校野球・注目校 監督インタビュー 立花学園[前編]】「伸びしろの最大化を」 自立した選手育成へ…新興私学が作る部活の新たな“カタチ”
【関連記事】
・【#1無料動画】長坂秀樹|【3ヶ月で子どもが変わる】スカウトの目に留まる選手になるための「投手力向上トレーニング」
・【第1話無料】高島誠2|【3ヶ月で子どもが変わる】高校野球でレギュラーの座を掴むための「打撃力向上トレーニング」
・多賀少年野球クラブ監督 辻正人|カリスマ監督が直伝「幼児野球指導」 公式戦未勝チームへ授けた「勝利の秘訣」
・江戸川区立上一色中監督 西尾弘幸|全国常連上一色中は なぜ選手が伸びるのか
・取手リトルシニア監督 石崎学|3度の全国制覇を誇るリトルシニア監督から学ぶ 選手の未来をつくる基礎練習