【高校野球・注目校 監督インタビュー 立花学園[前編]】「伸びしろの最大化を」 自立した選手育成へ…新興私学が作る部活の新たな“カタチ”
高校野球の激戦区・神奈川県で、2022年夏の選手権では県4強、2023年春には県8強に進出と、近年、着実に上位候補として名乗りをあげてきているのが、私立・立花学園高校(松田町)。この4月で就任8年目を迎える志賀正啓監督は、選手の主体性を重んじた指導と、データを活用した成長の可視化で“強豪越え”を目指している。「革命」の言葉を掲げ、新しい高校野球の部活動の“カタチ”も模索する、監督の言葉を聞いた。
――高校野球の指導者を目指すきっかけを教えてください。
「小学1年生で野球を始めて、そこからずっと野球が好きで、プロを夢見て取り組んできましたが、高校生(明大中野八王子高)になって現実的なことが見えてきた時に、『プロは無理でも、どうすれば野球に携われるか』を考えました。その時、教員になればずっと野球に関わることができる、生徒と一緒に甲子園を目指すのも手だなと思ったのがきっかけです」
――進学した明大でも野球部に所属し、教員免許を取得しました。
「教員となって初めに赴任したのは日体荏原高校(東京)で、1年目はバレーボール部の顧問、そこから7~8年ほど野球部の助監督を務めました。そして立花学園に来たのは2017年4月、30歳の時でした」
――赴任当時の野球部は、どのような雰囲気でしたか。
「2016年夏に前任の監督が辞められ、その間は監督代行の方が指揮を執られていたのですが、『選手たち自身が考えて野球をする』という流れはできていました。練習にせよ試合で作戦を立てるにせよ、『自分たちでやろう』という高い意識を持った選手が多かったですね。就任後の夏の大会までは3年生の意図を汲みながら、私はサポートしていく形でした」
――そこから、ご自身の色を出していったわけですね。
「『色を出していく』という言い方は難しいですね。私の『色を出す』よりも、生徒たちの『色を出させてあげたい』と考え、そのために、必要なことを1つ1つ取り組んでいった感じです」
――きっかけとなった出来事はありましたか。
「その就任1年目の夏は県ベスト8に終わりましたが、最後の試合で印象的な出来事がありました。3点ビハインドの1死一、三塁で、一塁走者が盗塁のサインを見るタイミングを失ったのです。無理にリスクを負う場面ではなかったかもしれませんが、一塁手はベースから離れていたし、二塁に進めばゲッツーもなくなる。そうした場面でも冷静に状況を客観視でき、ロジカルに動ける選手を育てていきたいと考えました」
――客観視できる選手を育てる上で、取り入れたことは何でしょうか。
「例えば、『ラプソード』などの計測機器を、早い段階から取り入れています。選手自身が練習の成果を数値化して見ることで、セルフコーチングができるようになる。そこに主観は入りません。最終的には、自分たちで行動できる人間がどれだけ多いか、自立した選手がどれだけいるかが、勝ちに直結すると考えています」
――ラプソードの導入はいつ頃でしょうか。
「2019年2月くらいですね。まだ得体の知れないもので(笑)、選手たちと模索しながら使っていましたが、やはり、毎日使うことで日々の経過観察ができることが良いと感じました。一番大事なのは、人と比べるのではなく、『昨日の自分を超える』こと。セルフコーチングの力は、野球をやめてからも生きてくるものだと思います」
――他に、取り入れたものはありましたか。
「SNS運用も早い段階で始めました。X(旧ツイッター)を始めたのが、2019年の1月。当時、“バイトテロ”などSNSにまつわる事件が多かったのですが、逆にチームとして積極的に発信することによって、選手たちに『常に見られている』という意識が芽生えるのではないかと考えました。全世界の人が反応すると、どのようなことが起こるのかも分かりますし、ネットリテラシー教育になります。もちろん、立花学園野球部を認知してもらいたいことも大きかったですね」
――これまでの学校教育の考え方だと「厳禁」の方向に行きがちですが。
「刃物と一緒で、使い方がわからないから人を傷つけてしまうのであって、使い方が適切であれば、有用な“道具”になると思います。Xについては私たちスタッフが確認してポストしていますが、インスタグラムについては選手・マネジャーに任せています。おかげさまで、立花学園の認知度も高くなってきたと感じます」
――新しいものを積極的に取り入れるのはなぜでしょうか。
「私が考える1つのテーマが、『生徒の伸びしろを最大化させる』ということ。この部活動が、大人の社会の縮図だったらいいなと考えているからです。SNSも将来、社会人になった時に『高校の時からやっていました』となれば、『あなたに任せよう』とSNSマーケティングの仕事が回ってくるかもしれません。データについても、マネジャーと選手5人で研究班を作り分析をしていますが、そうした経験があれば、将来会社で『君は数字に強いね』と評価につながるかもしれません」
――野球のプレーだけでなくさまざまな手段で、生徒の「伸びしろの最大化」を目指すと。
「生徒たちが生き生きとして日々を過ごせたら、部活動にも自然に活気が出て、勝利に近づけるのではないかと。夏の大会でベンチ入りできる20人だけが光るのではない。みんなが“前のめり”になれるような仕組みは作っていきたいと常に考えています」
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