決戦前に異例直談判「高校野球教えて」 染みた敵将の言葉…“補欠監督”こその目配り

決戦前に異例直談判「高校野球教えて」 染みた敵将の言葉…“補欠監督”こその目配り

■「現役時代は補欠」の島田達二氏…名門・高知高の部員全員を生かすチームづくり

 

 かつて母校である名門・高知高を率いて春夏合わせ9度甲子園に出場し、2006年秋の明治神宮大会で優勝、2013年春の選抜大会では準決勝進出を果たした島田達二氏。侍ジャパンU-18代表のコーチも3度務めた。First-Pitchでは「甲子園球児の育ち方・育て方」をテーマに、甲子園へ導いた元監督や元球児、その保護者にインタビュー。「私自身は高校時代補欠。選手としては“下手クソ”でした」と島田氏は言うが、監督として当時約100人に上る部員をまとめ上げたのには“秘訣”があった。

 

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「高校時代は一応内野を守っていましたが、2年生の時はスコアラー、3年生では専らベースコーチを務めていました」と島田氏。高知大を卒業し、母校・高知高の野球部長を経て、1998年には系列の高知中の軟式野球部監督に就任した。

 

 そして高知高硬式野球部の監督に“異動”となったのは、2004年12月だったが、実は最初の打診は断っている。「前任者が突然辞任し、監督が2か月間空席となった状況でした。私は高知中監督として全国大会に1度も連れていけず、そんな人間が伝統校を率いていいのかと不安でした」と振り返る。

 

 高校時代の恩師(元監督)の岡本道雄氏らに「“つなぎ”のつもりでいいから」と説得され受託。就任にあたっては「甲子園を目指せるチームを作りたい気持ちはもちろんありましたが、一方で自分自身が補欠だったので、できるだけ部員全員にモチベーションを持たせながらやっていきたいと考えました」

 

 就任当初は、実績のある他校の監督にも積極的に教えを乞うた。特に2008年夏の甲子園1回戦で対戦した広島・広陵高の名将、中井哲之監督としての交流は忘れられない。「今だから言えることですが……」と島田氏は苦笑する。

 

 対戦が決まった後、敵将の中井監督に「高校野球について教えてください」と直談判した。甲子園大会では1回戦前、メディア向けに対戦校の監督同士の対談が行われるのだが、この時は対談を10分程度で切り上げた後、個人的に約2時間にわたって質問をぶつけながら中井監督の理論を傾聴した。

 

■大所帯をまとめるには“頑張り枠”が鍵…「状況を打開してくれる」

 

「もともと1人の高校野球ファンとして中井さんを尊敬していましたし、すごくありがたかった」と島田氏。中井監督の「甲子園に何回行ったとか、プロ野球に何人行かせたとかは、どうでもええ。目の前の子どもたちをしっかり教えることが大事」といった言葉にうなずいた。

 

「監督としての腹のくくり方を教わりました」と感謝する島田氏は、「当時高知県の方々が知ったら、『対戦する前から相手に負けとるやないか』と怒ったでしょうね」と、もう一度苦笑した。

 

 監督として心を砕いたのは「試合に出られない補欠の子のモチベーションを、どう保たせていくか」。そこで方針として心に決めたのが「“頑張り枠”というか、野球はそれほど上手でなくても、チームのために尽くしている子に背番号を渡すこと」だった。

 

 具体的には「過去には、いつもグラウンドに最初に来て水をまき、整備をしている子、上級生になっても人一倍声を出し、“バット引き”などの雑用をこなしている子に背番号を渡しました」と語る。

 

「当時部員が100人くらいいて、誰を選んでも80人は補欠です。そういう子をどう生かすかを考えました。単純に野球の技術だけとなると、早々と『俺がレギュラーになるのは無理』と諦める子が出てきて、チーム全体の活気が下がってしまう。野球以外のところでも可能性があるとなれば、頑張り方がいろいろ出てきますから」と説明する島田氏。

 

 技術的に優れた選手たちに対しても「いちいち言葉で説明しなくても、普段からチームにとって大切なことについて話をしていました。長く一緒にやっていれば、誰がどういう意味でベンチに入っているかを、みんなが理解します」という。最終的なベンチ入り選手の選考にあたっては、「監督の私から見えない部分もありますから、主将や副主将の意見も聞きました。なるべくみんなが納得する選手を選んだつもりです」とうなずく。

 

 さらに、実際の試合で“頑張り枠”の選手が活躍することもあった。「えてして、どうにもならない時に状況を打開してくれるのが、そういう子でした。試合に出した瞬間、チーム全体が盛り上がり、ムードが変わりました」と目を細める。

 

 野球はチームスポーツだ。大所帯になるほど、島田氏のように“補欠の気持ちがわかる指導者”の存在は重要になるのかもしれない。

 

 2018年夏限りで監督を退任後、他校から監督就任の打診が複数あり、国語教師として高知高に残る道もあったが、あえて新天地を求めて、東京ヴェルディ・バンバータのベースボールアカデミー統括ヘッドコーチに就任した。中学生世代のU-15硬式チームとU-15軟式チームの両方の指導に携わっている。

 

 高知高監督時代とカテゴリーは変わっても、さまざまな特長、性格を持った選手1人1人と丁寧に向き合う島田氏。4月1日からの参加予定の「甲子園予備校」でも、その変わらぬ姿勢と信念を披露してくれる。

 

■高知高監督として甲子園9度、島田達二さんも“参戦決定”!

 

 First-Pitchと野球育成技術向上プログラム「TURNING POINT」では、4月1日(月)から5夜連続(午後8時から)で、オンラインイベント「甲子園予備校」を開催します。甲子園出場経験のある監督、選手と保護者がYouTubeライブに登場。指導方法や練習方法、日頃の生活習慣など、自身の経験を基に、夢や目標を叶えるための対策や準備についてヒントを授けます。参加費は無料。詳細は以下のページまで。

 

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