定説覆す“殻を破る”秘訣 日本一チーム指導者も体験…練習通りは「たいてい負ける」
■2022年に日本一…東京・上一色中でもコーチを務める塩多雅矢氏
「練習でできないことを、試合でできるわけがない」は、指導者なら誰でも口にしそうな言葉である。ところが、トレーニングコーチの塩多雅矢氏は逆だ。First-Pitchでは少年野球の現場を知る“凄腕コーチ”12人に取材。塩多氏は「大会は“発表会”ではない。新しいことができるようになる場だよ」と選手に説いている。
約20校の中学・高校の野球部をトレーニングコーチとしてサポートしている塩多氏は、2022年に全日本少年軟式野球大会で全国制覇を成し遂げた東京・江戸川区立上一色中では投手コーチを務めている。
「上一色中もそうでしたが、大会で勝ち上がっていくチームは、1試合ごとにうまくなっていくことが多いです。漫画『ドラゴンボール』のように、戦いながらうまくなっていく感覚が絶対にあると思います」
たとえば、練習試合で「捕ってから二塁送球到達まで2.0秒以下のキャッチャーからは、1度も盗塁を決めたことがない」ランナーがいたとする。この場合は「大会で2.0秒以下の捕手と対戦する時には、盗塁を控える」のが普通かもしれない。しかし塩多氏は「大会だからこそ、壁を破ろうとチャレンジしてほしい」と力を込める。
【無料|塩多氏出演】高校野球で活躍に近付く「年代別・短期間集中トレーニング」
「『練習でできる以上のことはできない』という“守りの姿勢”では、練習通りのプレーをすることさえ難しくなると考えています。実際、だいたいのチームが、練習通りにできずに負けていきます」。だからこそ「あれもこれもというわけではなく、1つだけでいいから、これまでの枠を広げたところで勝負してほしい」と言うのだ。
新しいことにチャレンジする以上、エラーや失敗は付き物。「僕は全然気にならないです」と言い切る。「1個のエラーで試合が決まることは少ないと思います。逆に、最初に安全にいった上でエラーしてしまったら、その試合ではチームメートを含めて、誰も何もできなくなってしまう気がします」とも語る。
■原点は自身の高校時代「最後の試合で初めて決めたプッシュバント」
「ゴロに対して前に出て捕ることがなかなかできず、日々の練習で課題にしている内野手がいるとします。その選手が試合で前に出てエラーをしたとしても、周りのみんなが『あいつはやろうとしている』と認めるでしょうし、次に捕れた時にはチーム全体がすごく盛り上がると思います。それが“試合の中でうまくなっていく”感覚なのかなと思います」
塩多氏のこうした発想の原点は、自身の高校時代にあるという。
東京・佼成学園高の硬式野球部で9番を打つことが多かった塩多氏は、セーフティバントのうち、一塁側へのプッシュバントだけは試合で決めたことがなかった。そこで監督から「毎試合1度は必ずチャレンジしてみろ」と課題を与えられた。「初めて成功したのは、3年夏の東東京大会初戦。僕にとって高校最後の試合でした。その試合ではスクイズを決めることができました」。
練習試合で何度チャレンジしてもできなかったことが、最後の最後に、大切な試合でできた。結局その試合に負け、それ自体はもちろん悔しかったが、勝敗を超えたところにも確かに価値を見いだすことができた。
「練習も試合も、うまくなる場であることに変わりはありません。むしろ試合は、プレッシャーがかかり緊張するからこそ、一番うまくしてもらえる場だと考えています。選手に、緊張感の中でワンプレーが決まる喜びと出会ってほしい」
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)
【関連記事】
・【全話公開中】塩多雅矢|【年代別/トレーニング論】高校野球で活躍するための獲得必須能力
・【#1無料動画】ミノルマン×久松宏輝|現在連載中|【3ヶ月で子どもが変わる】140キロ超の直球を投げる技術習得「年代別・ピッチング上達ドリル」
・【第1話無料】高島誠|【3ヶ月で子どもが変わる】140キロ超の直球を投げる技術習得「年代別・ピッチング上達ドリル」
・多賀少年野球クラブ監督 辻正人|カリスマ監督が直伝「幼児野球指導」 公式戦未勝チームへ授けた「勝利の秘訣」
・江戸川区立上一色中監督 西尾弘幸|全国常連上一色中は なぜ選手が伸びるのか
・取手リトルシニア監督 石崎学|3度の全国制覇を誇るリトルシニア監督から学ぶ 選手の未来をつくる基礎練習