自らの体を“実験台”に 引退後に最速154キロをマークした元早実エースの投球論
■内田聖人氏は野球アカデミーや、メッツ・千賀が参加するオンラインサロンを運営
ゴールはない。メッツの千賀滉大投手をはじめ多数のプロ野球選手が参加するオンラインサロンを運営する異色の指導者は、ジュニア世代の指導でも歩みを止めない。常識や正解を疑い、自らの体を“実験台”にして、今以上の答えを追求する。納得した方法だけを伝える哲学が、少年野球の子どもからプロまで幅広く支持されている。
東京都渋谷区の閑静な住宅街に、プロ野球選手も通う室内練習場がある。目を引く看板もなく、他の住宅に溶け込むようにひっそりと。口コミで評判が広がり、少年野球の子どもからプロまでカテゴリーを問わず選手が訪れている。
この室内練習場を運営し、選手たちに指導しているのは内田聖人さん。早稲田実業高2年の時に夏の甲子園に出場し、早大、JX-ENEOSとアマチュアの王道を歩んだ。その後は会社員をしながらトレーニングを続けて、2019年に米独立リーグのニュージャージー・ジャッカルズと契約した。その年限りで現役は引退したが、ユニホームを脱いでも野球の知識や技術への好奇心や探究心は衰えず、オンラインサロンや野球アカデミー「NEOLAB」を開設。オンラインサロンには、千賀ら多数のプロ野球選手も参加している。
内田さんは常識を疑い、現状よりも優れた体の使い方やトレーニングがあると考えて日々過ごしている。「スポーツは人間がやっていることなので、ミスや失敗はあります。今、自分がやっているトレーニングは来年になったら正しくなくなっているかもしれないと思いながらやっています」。吸収した知識と自らの経験を掛け合わせ、より良い方法を模索する。仮説を思い付いたら、自ら試す。
■肘を前に出さない投球フォームを推奨、現役引退後に軟式で155キロ計測
実際、内田さんは現役を引退してから、自己最速を更新している。速い球を投げる方法を追求した結果、硬式で154キロ、軟式で155キロを計測した。選手時代のピークより5キロ近く球速が上った理由の1つは、「肘を前に出して投げる」という球界の常識を疑ったことだった。球に力を伝えるには、投球する際に肘を胸のラインより前に出さない方が良いと感じていた。今では千賀の他にもオリックスの山本由伸投手ら、日本球界を代表する選手も実践しているが、内田さんは早い段階から同じ感覚を持っていた。
「元々言われていることが間違っているというわけではなく、もっと良くなる可能性があります。改善すると思ってやってみて、やっぱり前のやり方に戻そうというケースもあると思います。ただ、今のやり方で伸びしろを感じなくなった時に、知識や技術を掛け合わせて試すことで、可能性が広がると思います」
少年野球の子どもたちにも、自分が納得して今の段階でベストだと判断した技術やトレーニング方法のみを伝えている。また、子どもたちはプロと違って知識や経験が少ないため、実演して、まねをさせる教え方が多いという。「自分で試していないことを指導するのは好きではありません。言葉で理解してもらいたい部分もあるので全てではありませんが、やってみせるのが一番分かりやすいと思っています」。
【無料動画】自らを実験台に... 現役引退後に”155キロ”を記録した内田さんの「球速向上論」
肘を前に出さないフォームの方が球のスピードは速くなり、体への負担も少ないと考える内田さんは実際に投球して、子どもたちに体の使い方を理解してもらう。そして「肘を前に出すな」と指摘するのではなく、結果的に肘が前に出なくなる体の動きを習得できるように指導する。
「肘を前に出すなと言われて続けて1時間で完成させた投球フォームは、1週間後に忘れている可能性があるそうです。それに対して、自然と肘が前に出ない投げ方になるような練習をすると、体が長い期間覚えています」。技術もトレーニングも、今ベストな方法が最終的なゴールとは限らない。内田さんは立ち止まらず、常に先を見据えている。
(間淳 / Jun Aida)
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