全国V3度・多賀少年野球クラブの「子どもの都合に大人が合わせる」指導法

全国V3度・多賀少年野球クラブの「子どもの都合に大人が合わせる」指導法

■仰天の「練習体験会」の様子を動画に収めた

 

 “子どもファースト”の指導とは、実際にはどんなものなのだろうか。少年野球界のカリスマ指導者と呼ばれる辻正人監督が率い、全国大会優勝3度を誇る滋賀・多賀少年野球クラブ。「TURNING POINT」では同クラブの「練習体験会」に密着取材し、仰天の手法を動画に収めた。

 

「子どもの都合に、こちらが合わせていく。そして、だんだん野球の方へ環境を持っていくのです。決して、大人の都合に子どもを合わせようとはしない。そこは徹底しています」と辻監督は言い切る。

 

 同クラブでは、入部希望や興味を持つ子どもと親を対象に「練習体験会」を開いている。就学前の5-6歳の幼児もよく訪れる。ただし、この年代は総じて飽きっぽく、すぐにバットやグラブを投げ出してしまう子どもも多い。

 

 そんな時は、辻監督の口から「森へ行こう!」と意外な言葉が飛び出す。というのは、ホームグラウンドの外野後方に、小川が流れる森があり、辻監督が土地所有者の神社に直談判し、子どものリフレッシュゾーンとして使わせてもらっているのだ。地面に積もった枯れ葉の間を這うミミズに歓声を上げながら、森を散歩する辻監督と子どもたち、保護者。上級生の選手たちがユニホーム姿のまま浅くて流れの緩やかな小川へ、ずぶずぶと入っていく姿もあった。

 

【心を惹きつける指導の極意】保護者の想像を超越 “子ども都合”の指導法

 

 やがて、幼児に柔らかいボールを与え、「あそこの木に当てられる? 当ててみて!」と水を向ける辻監督。最初は大木にかすりもせず、ボールは後方へ転がっていく。「さよならー!」と声を張る辻監督を背に、子どもたちは自分でボールを拾いに走っていた。繰り返すうちに、渾身の1球が命中する。「当たったー! お母さん、見た? 天才や!」と子ども以上にはしゃぐ辻監督。照れてそっぽを向く子どもには、「ハイタッチ! ハイタッチ! せんのかい!!」と肩を落として見せて笑わせた。

 

■「野球への興味はどこに隠されているかわからない」

 

 いつしか子どもたちは、夢中になって木に向かってボールを投げ、森を駆け回っている。これぞ「だんだん野球の方へ環境を持っていく」指導技術なのだろう。「ずっと森にいたい。帰りたくない」と言い出す子どもも多いが、本人が物足りないと感じるくらいで終え、「また来たい」と思わせるのも秘訣の1つだそうだ。

 

「(野球への興味は)どこに隠されているかわからない。子どもの心を手探りで感じていかなければ」と辻監督は辛抱強く子どもに向き合う。子どもの心をつかむのは容易ではないが、「森は最高です」とサムアップして見せた。多賀少年野球クラブは今年8月にも、“小学生の甲子園”の異名を取る「マクドナルド・トーナメント」に滋賀県代表として出場することが決まっているが、確かにホームグラウンドに隣接する森は、子どもたちがすくすく育つ“秘密基地”だ。

 

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