
【小学校教員だから見えた】低学年指導で大切なこととは? 人口1万人未満の町が全国を目指すチームづくり【後編】
北海道のほぼ中央、人口1万人に満たない東川町を拠点に活動する北海道東川大雪少年野球クラブ。
1972年の創設以来、全道優勝や全国大会ベスト8・ベスト16などの実績を積み重ね、現在は幼児から小学6年生まで63名が所属しています。
前編では、地域全体で子どもたちを支える環境づくりや、全国大会を目指す理由についてご紹介しました。
では、子どもたちが主体となるチームづくりは、どのように生まれたのでしょうか。
今回は、小林弘明監督が自身の指導を見直したきっかけや、小学校教員だからこそ実践している低学年指導について伺いました。
この記事でわかること
・小林監督が怒る指導を見直した理由
・低学年へ伝える時に大切にしていること
・子どもの自主性を育てる「ノーサイン野球」
・指導を変えて子どもたちに起きた変化
チーム概要

▲幼児から小学6年生まで63名が所属する北海道東川大雪少年野球クラブ
チーム名
北海道東川大雪少年野球クラブ
創設
1972年
部員数
63名
活動場所
北海道東川町
活動日
高学年(3〜6年):火・水・金、土日祝
低学年(1・2年):月・木、土日祝
幼児:月・土
監督
小林弘明(こばやし・ひろあき)
監督プロフィール
北海道教育大学卒業後、小学校教員となり、少年野球指導者としても活動。上富良野ジャガーズ監督時代には全日本学童大会へ2度出場。2017年より東川大雪少年野球クラブ監督を務め、全国大会ベスト8・ベスト16などの実績を残す。現在も小学校教員として子どもたちと向き合いながら指導を続けている。
※記載情報は2026年7月現在
最初に変えたのは、子どもではなく自分だった

▲小学校教員として子どもたちと向き合いながら、チームを率いる小林弘明監督
小林監督は、以前の自分をこう振り返ります。
「恥ずかしい話ですが、昔はかなり怒っていました。」
ミスをすると怒る。
思うように動けない子どもへ、強い言葉を掛ける。
当時は、それが子どもの成長につながると考えていました。
しかし、指導を終えるたびに、ある思いが残るようになったといいます。
「本当に、あの言い方で良かったのだろうか。」
子どものために言っているはずなのに、自分自身が納得できない。
その違和感が、自分の指導を見直すきっかけになりました。
大きな転機となった名将との出会い

▲多賀少年野球クラブ・辻正人監督と東川大雪少年野球クラブ・小林弘明監督
そんな時に出会ったのが、当時から全国大会の常連として活躍していた多賀少年野球クラブ・辻正人監督でした。
最初に驚いたのは、指導法だけではありません。
人口1万人にも満たない町から、毎年のように全国大会へ出場し、準優勝やベスト4など数々の実績を残していたことでした。
「自分たちと同じような環境でも、全国で戦える。」
小林監督は、その事実に大きな希望を感じたといいます。
講演会のあとには辻監督と連絡先を交換し、チームづくりについて何度も相談を重ねました。
指導方法だけでなく、保護者との関わり方やチーム運営まで。
一つひとつ学びながら、自分自身の考え方も少しずつ変わっていきました。
その積み重ねが、現在の東川大雪少年野球クラブのチームづくりにつながっています。
「ダメ」では終わらせない

▲子どもが次にどう行動すればよいのかまで伝えることを大切にしている
現在、小林監督は、子どもを叱ることが必要な場面もあると話します。
ただし、叱るだけで終わらせることはありません。
例えば、一塁まで全力で走らなかった選手がいたとします。
以前なら、
「何をやっているんだ。」
その一言で終わっていたかもしれません。
今は、なぜ全力疾走が必要なのか。
全力で走ることで、チームや相手にどのような影響を与えられるのか。
子どもが次にどう行動すればいいのかまで伝えることを大切にしています。
だからこそ現在は、怒ることではなく、子どもが次の行動へ移れる言葉を掛けることを意識しています。
叱ることではなく、
次につながる言葉を掛ける。
その積み重ねが、子どもたちの表情を変えていきました。
「空振りしても大丈夫」が、子どもを成長させる
小林監督が特に変化を感じたのは、打撃だったそうです。
以前は子どもが空振りをすると、
「しっかりボールを見ろ。」
そんな声を掛けていました。
しかし、今は違います。
「いいスイングだった。」
まずは、思い切って挑戦したことを認めます。
すると、子どもたちは失敗を恐れず、思い切ってバットを振れるようになりました。
「空振りしても怒られない。」
その安心感が鋭いスイングにつながり、打球にも変化が表れたそうです。
失敗を責めるのではなく、挑戦を認める。
その環境づくりが、子どもたちの成長を後押ししています。
小学校教員だからこそ、低学年指導を大切にしたい

▲低学年には、できたことを認めながら野球の楽しさを伝えている
東川大雪少年野球クラブでは、低学年の指導にも力を入れています。
小学校教員でもある小林監督は、
「低学年ほど、伝え方が大切」
と話します。
難しい専門用語ではなく、子どもが動きをイメージできる言葉を選ぶ。
できたことを一緒に喜ぶ。
小さな成功体験を積み重ねる。
そうした関わりが、
「もっとやってみたい。」
という気持ちにつながっていきます。
まずは、野球を好きになること。
それが、すべての土台になると考えています。
子どもの自主性を育てる「ノーサイン野球」

▲監督の指示を待つのではなく、子どもたち自身が状況を見て判断する
東川大雪少年野球クラブが目指しているのは、「ノーサイン野球」です。
監督が細かな指示を出すのではなく、子どもたち自身が状況を見て判断する。
もちろん、最初からできるわけではありません。
自分で判断した結果、失敗することもあります。
それでも、自分で考え、選択した経験は、必ず次につながります。
野球を通して、
自分で考える力を育てる。
野球の試合だけではなく、社会に出てからも必要になる力を身に付けてほしい。
そんな思いが、このチームにはあります。
地域も、子どもを育てる仲間
東川大雪少年野球クラブを支えているのは、指導者だけではありません。
町の支援。
保護者の協力。
地域の皆さんの応援。
全国大会へ挑戦できる環境や、日々の練習環境も、多くの人の支えがあって成り立っています。
「子どもたちは地域みんなで育てるもの」
小林監督は、そんな考え方を大切にしています。
だからこそ、野球を通して地域とのつながりも自然と生まれていきます。
取材を終えて
今回の取材で印象的だったのは、小林監督が「勝つこと」だけを語らなかったことです。
全国大会へ行く理由も、技術を身に付ける理由も、すべては子どもたちの世界を広げるため。
北海道という土地を飛び出し、さまざまな人と出会い、多くの経験を積んでほしい。
そのために、勝つことにも本気で向き合う。
そして、その土台には、子どもを信じ、考える時間を大切にする指導があります。
人口1万人に満たない町だから難しいと考えるのではなく、どうすれば子どもの可能性を広げられるのか。
地域と一緒に何ができるのか。
その問いを積み重ねた先に、現在の東川大雪少年野球クラブがありました。
人口1万人未満だからできないのではなく、
小さな町だからこそ、地域全体で育てる。
東川大雪少年野球クラブの取り組みは、地域の規模に関係なく、多くの少年野球チームにとって参考になるチームづくりでした。
7月27日(月)21:00〜開催
子どもの本気を引き出す
大人の関わり方
全国優勝3回・多賀少年野球クラブ 辻正人監督が、子どもが自ら成長する環境づくりについてお伝えします。








