
観客席も驚き「あれは何だ?」 “低姿勢”に拍手喝采…激戦区球児を主役にする「隼人園芸」
■神奈川の強豪・横浜隼人の名物グラウンド整備「隼人園芸」にはトレーニング効果も
高校野球ファンの間では、「阪神園芸」に次ぐ知名度ではないだろうか。2009年夏に甲子園初出場を果たした横浜隼人に代々受け継がれるトンボ掛けは「隼人園芸」と呼ばれ、神奈川の高校野球の風物詩の1つとなっている。なぜ、名物となるグラウンド整備が生まれたのか。そこには、大所帯のチーム中でどう効率良く動くか、さらには激戦区・神奈川の高校野球文化を担ってほしいという監督の思いがある。
毎年、ベンチ外の部員たちが保土ケ谷球場で行われる公式戦の補助員を担当する。5回終了時に行うグラウンド整備は、まさに壮観だ。「整備行くぞ!」のかけ声とともにトンボを持った部員たちが駆け出すと、スクワットのように腰を低く落とした姿勢で、機敏に内野の土をならしていく。かつて有名バラエティ番組でも紹介された光景を一目見ようと集まるファンも多く、ベンチ裏へ下がる時には惜しみない拍手が送られる。
チームを率いて34年目になる水谷哲也監督は「ウチはとにかく部員が多いので、1分1秒を大切にしようというところから始まりました」と説明する。現部員は2学年で79人と、県内でも屈指の部員数を誇る。トンボ掛けもトレーニングの一環として行わせていたのが「隼人園芸」の起源だ。
「グラウンド整備も低い姿勢で行えば、大臀筋や大腿四頭筋、ハムストリングスのトレーニングになり、股関節だって柔らかくすることができます。保土ケ谷球場の補助員は最初、横浜商大高さんが担当されていましたが、部長先生が定年退職された際に、ウチが手を挙げ、担当させてもらうようになりました。保土ケ谷でもあの低い姿勢のままトンボ掛けをしていたら『あれは何だ?』と。(神奈川開催だった)昨秋の関東大会では初めて見た人もいっぱいいたでしょうから、拍手喝采でしたよ」
以前は木製の「マイトンボ」があり、修理・修繕を重ねながら大切に使用。卒業式に全員から寄せ書きをしてもらい、持ち帰った生徒もいたという。現在は、メーカーが部員の意見を参考に、軽く、壊れにくいアルミ製のトンボを開発。内外野が土で覆われている自校のグラウンド全面を手際よく整備することが可能となった。
■「あなたたちは神奈川県の高校野球を運営している」
球場の補助員は、グラウンド整備だけが仕事ではない。チケットの販売や駐車場への誘導、ファウルボールの回収など、その仕事は多岐にわたる。全員が団結しなければスムーズに試合運営を行うことはできない。
「『補助員はただの手伝いじゃない。あなたたちは神奈川県の高校野球を運営しているんだよ』と、選手たちには伝えています。神奈川の高校野球は文化です。夏の横浜スタジアムを見たらわかるように、準決勝、決勝ともなれば多くの観客が入ります。あの大会を運営していることは、プレーヤーになるよりも価値があることだという話をよくしています」
全員が主役になることはできない。ただ、球場補助、そして「隼人園芸」で得た経験はきっとかけがえのない財産になるだろう。横浜隼人は、一人ひとりが人生の主役になるべく、野球を通じて人間力を養っている。