
「飽きさせるのは大人の負け」40年前の名著と“オーダーメイド”の指導で引き出す子どもの本能
前回、低学年のうちは「野球を好きになってもらうこと」が最優先であると語ってくれた、東京都の人気少年野球チーム「町田玉川学園少年野球クラブ」代表の菊池拓平さん。
今回は、野球を好きになった子どもたちを「上手くさせる」ための、具体的な育成論に迫ります。
部員約80名を抱えるチームだからこそ生まれる環境の刺激や、子どもの集中力を切らさない練習メニューの工夫、そして現代の子どもの体型に合わせた“オーダーメイド”の指導法について伺いました。
この記事でわかること
・上級生の姿が下級生に与える刺激
・子どもの本能と五感に訴える指導
・集中力を切らさない練習メニューの作り方
・40年前の名著から学ぶ技術の原理原則
・体格に合わせた“オーダーメイド”の指導
身近な「お兄さんチーム」が生み出す憧れ
――部員数が80名前後になり、全学年で単独チームが組めることによる育成上のメリットは何でしょうか?
菊池:同じグラウンドに上の学年がいることで、下の学年の子どもたちが「お兄さんチーム」の練習を日常的に見られることです。目の前に目指すべきレベルや憧れの先輩が常にいる。この環境が与える刺激は、指導者が口で言うよりもはるかに大きいですね。
今の時代、地上波でのプロ野球中継も少なく、子どもたちが大谷翔平選手以外のプレーを目にする機会が減っています。だからこそ、身近な場所に憧れの存在がいる状態を維持できていることが、うちの強みです。
指導者が言葉で説明する以上に、
憧れの先輩の姿が子どもを成長させる。
子どもの「本能」と「五感」に訴える
――指導において「言葉で伝えること」以上に大事にしているのは何でしょうか?
菊池:子どもの「本能」や「五感」に訴えかけることです。以前、コーチがフルスイングで遠くへ打球を飛ばす姿を見せたり、日体大のグラウンドで元プロの辻孟彦コーチが投げる物凄い球を見せたりしたことがありました。
子どもたちは最初、驚いて黙るんですが、その後に「うわーっ!」と声を上げる。教科書やプリントで「野球の面白さ」を説明しても伝わりませんが、目で見たもの、あるいは硬球を打ったときの音などを五感で感じたとき、子どもたちの心の中に「自分もやってみたい」という欲求が本能的に芽生えるんです。
遠くへ飛んでいく打球。
目の前を通り過ぎる速いボール。
硬球を打った瞬間に響く音。
五感で受けた衝撃が、「自分もやってみたい」という本能を呼び起こす。
野球の面白さは、
言葉ではなく体験で伝える。
「子どもが集中しない」と嘆くのは大人の負け
――グラウンドのホワイトボードには、膨大な数の練習メニューが貼られているそうですね。
菊池:実は、養いたい基礎的な運動能力や原理原則といった目的自体はすごくシンプルなんです。ただ、子どもたちの集中力は30分も持たないことがあります。
同じ目的のメニューを1時間続けるのではなく、目先を変えたメニューに細分化して30分ずつ区切ることで、のめり込み度合いが変わってきます。
「子どもが集中しない」と嘆くのは大人の負け。
菊池:没頭させるメニューを逐一提供していくのが、大人の務めだと思っています。
身につけてもらいたい能力や練習の目的は変えず、子どもたちの目に映るメニューの形を変える。
同じ動きを繰り返させるのではなく、ゲーム性や競争、道具などに変化を加えることで、子どもが自然とのめり込める環境をつくっています。
40年前の名著に書かれていた原理原則

▲変わらない原理原則を基礎に、一人ひとりの体に合わせた指導を行う
――菊池監督が技術的な指導の根本として、大切にされている本があるとお聞きしました。
菊池:高校時代に出会った『科学する野球』という、1985年に発刊された本です。ここには、今アメリカから入ってきた最新理論と言われているような体重移動の概念などが、40年も前にほぼすべて書かれています。
地球上で野球をやっている以上、物理に支配されているので、強く遠くに飛ばすための理屈は変わりません。指導者として一度知識をまっさらにして勉強し直した際も、行き着く根底はやはりこの本に書かれている原理原則でした。
流行する技術論や表現は変わっても、
ボールへ力を伝える物理的な原理原則は変わらない。
新しい理論を追いかけるだけではなく、
変わらない原理原則を理解する。
子どもの体の中に入り込んで考える
――現代の子どもたちの体型の変化に合わせて、指導方法も変えているのですか?
菊池:今の子は本当に足が長くて細いです。そのため、昔のように「股を割って腰を落とす」という内野守備の姿勢が、骨格的に合わない部分があります。そこはメジャー流の捕球要素を取り入れるなど、工夫が必要です。
私はよく「子どもの体の中に入り込んで考える」と言うのですが、同級生でも早生まれかどうかだけでも筋力や骨格には大きな差があります。
やる気がないのではなく「使えないパーツがある」ことを見極め、一人ひとりの背格好に合わせたオーダーメイドの指導を心がけています。
できない理由を「やる気」で片づけない。
体格や筋力、骨格、成長の時期は一人ひとり異なります。
全員を同じ形へ当てはめるのではなく、その子が今使える体のパーツを見極めながら、最適な動きを一緒に探す。
“オーダーメイド”の指導
原理原則を基礎にしながら、
子どもの体格や成長段階に合わせて伝え方と動きを変える。
どんな子でも野球と出会える場所であり続ける
――最後に、今後チームを運営していく中で大切にしていきたいことを教えてください。
菊池:現在80名ほどの部員がいますが、うちは人数の制限を設けていません。今の時代、公園で野球をすることが難しくなっています。
だからこそ「野球がやりたければ、どんな子でも受け入れる場」であり続けたい。人数が増える分、指導者側の体制をもう一段上げていく必要がありますが、学童野球チームの本分として、子どもと野球が出会う場をこれからも広げていきたいですね。
野球がやりたければ、
どんな子でも受け入れる。
子どもを野球と出会わせ、野球を好きになってもらう。
夢中になった子どもを、飽きさせない工夫によって上達へ導く。
そして、一人ひとりの体や成長段階に合った指導を考える。
町田玉川学園少年野球クラブに多くの子どもが集まる背景には、勝敗や技術だけではなく、子どもの本能と成長に向き合い続ける指導者の姿勢があります。








